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妖怪企画さんより、ヘルガー♂:瑪月(マーユエ)

軍人企画に参加していた篠ノ雨(バクオング:♂)の親友にして幼馴染み、そして既に故人。現在半分人間半分精霊(っぽいもの)。
死後『風渡り』(注1)となってあっちこっちをふらふらしつつ、現在は平安の京で『送り狼』(注2)の化生として灯り無し蕎麦屋の店主やってます。

(注1)
当世界観参照。セレビィ直下の運命介入者の総称。
(注2)
悪い意味ではなく、人が狸や狐に化かされたり、災難に遭ったりしない様安全な場所まで送ってくれる狼・山犬の事を指す。

 雪花ちらつく平安の都。
 寒さ故か、昼時ともなれば左京の一画、営業中にも関わらず火の入っていない行灯を置く蕎麦屋にも引っ切り無しに客が訪れて。
 何時に無く減りの早い蕎麦と饂飩の在庫に冷や汗を垂らしていた店主が、未の刻(午後二時前後の二時間)ともなって客足が落ち着き、漸く自分の昼餉を取っていた時だった。

 ほとほと。ほとほと。

 戸を叩く音に顔を上げ、姿無く鳴く雀の声に眉をひそめる。

「路護りの狼」
「風追いの狗」
「「開けて」」

 曇り硝子をはめ込んだ引戸には何の影も映らず、ほとほとと引戸を叩く童女の二重音声のみが店内に響く。
 察しは付いていたがそのまま放置して、卵雑炊と筑前煮の昼餉をつついていれば、『ほとほと』が『ぺちぺち』、『べしべし』が『ばんばん』に変化してなかなか立派にラップ音。
 姿の見えない雀達もパニックを起しはじめたので、漸く席を立って引戸を開けた。

 左の童女は薄藤の髪。白に蘇芳の躑躅の襲の水干に、菊綴は日光の赤。
 右の童女は漆黒の髪。白に二藍の躑躅の襲の水干に、菊綴は月光の黄。
 燈の灯らない玄関に立つ、シンメトリの双子。

「路護りの狼」
 そう呟くのは左の童女。表地の橘の透かしから、裏地の蘇芳が覗く。
「風追いの狗」
 そう呟くのは右の童女。表地の桜の透かしから、裏地の二藍が覗く。

「酷い」
「大人気ない」
「……や、お前達がソレを言うか?」
 玄関先にちんまりと立って睨む鏡写しの童女二人に、瑪月が溜息をもって応える。
「せめて来るなら気配を抑えて来てくれや。夜雀達が怯えとるんだが」
 随分下にある薄藤と漆黒の頭を見下ろしてぼやけば、双子は顔を見合わせて店内の梁を見上げて口を尖らせる。
「それは日猫(リーマオ)の所為じゃないの」
「それは月猫(ユエマオ)の所為でもないの」
「「あっちが怖がっているの」」
 むっと眉を顰め、寸分違わず天井の梁を双子が指差せば、「ばさばさばさっ」と姿の無い雀達が天井を逃げ回っている音がする。
「そりゃお前等『猫』の言霊憑いてってからなぁ」
 幾ら夜雀達が妖怪とは言え猫は怖い様だ。……てかこいつ等猫以前に人でも妖怪でも無いんだがなー。と思いつつ、こっちでは久しぶりに見た双子に首を傾げる。
「てかお前等何しに来た?」
 今の所『こっち』にはこの双子が遣って来る必要が無いのだが。
「お使いなの」
「お使いなの」
「「鶏肉入り粽五つ下さいな」」
「………なんでお前等がウチの店の裏メニュー知ってんのかなー?」
 同じタイミングで厨房を指差す日月の猫に、瑪月がにーっこり笑って見せれば、
「日猫だから」
「月猫だから」
 取り付く島もない回答にかくりと肩を落とす。
「なんだってんだか……」
「路護りの狼」
「風追いの狗」
 ひたりと二色の双眸が無表情に瑪月を見据える。


「「御遣いなの」」


 音を変えたその一言に、瑪月の赤瑪瑙の眼がすっと細まる。
「誰だ」
「旅人の守り主」
「水治めの君」
「……聞いた事無いな」
「上司には違いないんだろうが」と初めて聞く名前に首を傾げるも、双子の猫からの説明は無い。それどころか、
「お腹空かせてる子がいるの」
「主様が助けたの」
 ぐいぐいぐいーっと、着崩した羽織の袖を掴んで引っ張り始め、瑪月にとっては初耳の二声に瑪月も声が荒くなる。

「お前等それを早く言えっつーに!!」

 ぺいっと二人を引っぺがすと、瑪月は鍋の上で蒸気を上げる蒸篭に走る。
 この者、送り狼の化生にして、その性格は大変お人好しである。
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