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獣御三家と時渡り

  ふ、と。


 


 闇に響く声に彼女は顔を上げた。


 程なくして、他の二人も闇に眼を凝らし、表情を綻ばせる。




「久方振りだな。公の地から謳が響くのは」

 赤髪の男性の声に、紫水の髪に水晶を散らした中性的な青年が小さく頷く。

「歌こそは響いておりましたが・・・やはり本来の謳い手が謳うとこうも違うのですね」

 ほう、と息を吐いて、紫水の青年は謳の奔流に身を浸している金髪の同僚を、羨ましそうに見やる。

 羨ましそうな二人の視線に気付いたのか、金髪の女性は慌てて周囲に満ちる『謳』の欠片をかき集めて抱き込んだ。

「や、やらないからなっ!?久しぶりの供物なんだからっ!!」

 うるる・・・と猫科の獣の様に喉を鳴らして威嚇する女性に、落ち着けと身振りで二人が制す。

「誰も公に捧げられた謳など盗ったりせん」

「そうですよ。それも数年振りの謳ですからね」

 二人の声に、うんと金髪の女性が頷く。

「戦場であの子が謳っているのは聞こえていたんだ。でも、あの子は誰かを弔う為に謳っていたから・・・あたしが貰うのも気が引けて・・・。

 本当に、定められた場で、正統な者による謳が捧げられたのは久しぶりだ」

「それも、『亡月』の魔の手も叩き落とした破魔の子の謳ですしね」

 少女の様に笑う同僚に笑いかけながら、紫水の青年が頷いて。

「・・・・・・しかし・・・我等の地の、しかも当主の血統の子を『花嫁』として連れて行こうなどと・・・・・」

 赤髪の男性が、顎を摩りながら呆れを含んだ声で呟く。

「・・・独りにされたあれの気も解らんでもないが、流石に此度の事は許せる物ではないしな」

「・・・赤子の時に精神を壊しておくなど・・・思いも依りませんでしたからね」

「あたし、あいつ嫌い」

 紫電の閃光を双眸に宿し唸る同僚に、赤髪と紫水がそろって溜息を吐いた。

「・・・まあ落ち着け。流石にお手付きになった者に手を出す奴じゃないだろ、あいつは」

「彼が欲しいのは『自分だけの唯一人』ですからね」

「それに」

 新たに加わった高い声に、三人が振り向く。

「『骨の王』が彼の擁護に名乗りを挙げたからね。今生で『亡月』が彼に手を出す事は叶わないよ」

 伸びやかに響く声で、若苗の髪の少年が告げる。その背に有るのは一対の薄い翅。


「「「『常盤』」」」


 膝を折ろうとする三人を首を振って止め、いかにも面倒臭そうに溜息を吐く。

「まったく・・・あの馬鹿も馬鹿だよねー。ウン百年昔に惚れてふられた巫覡に魂似てるって言ってもさー、似てるんなら返って来る反応同じだと思わないー?」

 他人の色恋沙汰に興味ありませんあー面倒だったと言いたげに肩を叩く半上司、半同僚の少年に、「あーあ、言っちゃったー」と三人がこっそり気不味い顔を見合わせた。

「そ、それでも、もしかしたら・・・と可能性に掛けてみたのでは?」

 一応同じ男として、仄かに同情の意を唱えた赤髪の男性に、「はっ」と冷たい嗤いが同僚と上司から浴びせられた。



「ばっかだねー」

「ばっかよねー」



「「ねー?」」と声を合わせて首を傾げる若苗の少年と、金髪の女性の視線は何処までも冷ややか。

 たりたりと冷や汗を零す部下に、若苗の少年の澄んだボーイ・ソプラノがざっくざっくと突き刺さる。



「そりゃさ、相手の事を想って自分を磨いて、それで一か八かの告白ならまだこっちも生温ーく見守ってあげるよ?イレブンナインの確率で玉砕だろうケド、まあよくやったと肩を叩いてあげますさ」

「でもあの馬鹿がやってんのは、自分を変えもせずに相手の心変わりをただ期待してんの。思いっきりマイナス方面の心象与えつつ!てかあれもう半ば拉致監禁で犯罪でしょ」

「しかもアイツが欲しいのは昔惚れた女の魂であって、あの子自身じゃないもんねぇ」

「んな馬鹿にうちの子をやれるか!!」



 すっぱりきっぱり。



 腰に手を当て、胸を張って漢らしく啖呵を切った金髪女性に、「おー」と若苗の少年が拍手を贈る。

「『焔駆』・・・」

 意気投合している同僚と上司を、ぽかーんと眺める赤髪の男性の肩をぽふりと紫水の青年が叩く。

「あなた一体ナニしたかったんで?」

 朗らかな笑みでざっくりと切り捨てられ、『焔駆』と呼ばれた男性の広い背中が煤けて見えた。

「『水駆』・・・お前も容赦無いなぁ」

「『雷駆』と『常盤』程では有りませんが・・・まあそれなりに怒ってはいますので」

 口元に手を当て楚々と笑う水駆だが、その瞳の苛烈な光に焔駆どころか常盤と雷駆までもが一瞬怯む。



「・・・・・・ま、まあ取り合えず、これであの子の周りは落ち着いたね。まぁ雷駆の直轄地の御巫が代替わりしちゃうけど・・・そっちはいいの?」

 気持ちを切り替え、小首を傾げて問う常盤に、姿勢を正して雷駆が頷く。

「はい。元々あの子が直轄地を離れていた際に、社を預かっていたのが彼女でしたから。本人も、長兄の後を継ぐ意志を持っています」

「彼の魂と因果が御巫であるのは変わらないけど・・・彼がこれからの路を歩くのに、御巫の肩書きは邪魔だろうしね」

「ただ・・・確実に兄妹共々、風を渡る存在に成ってしまいましたね・・・」

 思案顔の水駆に、ひらりと片手を振って常盤は笑う。

「ああ、大丈夫大丈夫。彼等には僕の方から無意識下に制限掛けておくから。死なない限り肉体での移動はさせないよ」

「兄は兎も角・・・妹の方は難しいんじゃないですかね・・・」

 ぼそりとした焔駆の呟きに、残りの三柱が瞬いた。




「だってあの妹の魂・・・雷駆そっくりですよ」




「あー」と同時に天を仰いだ常盤と水駆を他所に、電光石火の拳が焔駆の鳩尾を穿つ。

「どーゆー意味よ」

 柳眉を吊り上げ問う雷駆だが、発言者の意識は既に遠く桃源郷の彼方。

 今頃はお花畑でのほほんと昼寝の真っ最中だろう。


「・・・兄はどっちかってーと水駆の資質に近かったのにね」

「名前が水でしたから、言霊に引っ張られたかと」

 お花畑にトリップしている同僚を他所に、ぽしょぽしょと顔を寄せて密談中の二人。

「や、其れを言ったら妹は焔駆に近くなるんじゃないの?」

 名前の色味的に。

「いえ、父親が雷の属性ですし・・・何より名前の元を辿れば極光・・・女神ですよ?」


 雷で女神で、尚且つ直轄地の当主の長女。

 影響を受けない訳が無い。


「あらま。・・・もしかしたら僕の制御振り切って生身で風渡っちゃうカモ?」

「可能性は・・・高いです」

 こーっくり頷く部下に、「雷駆が二人になんの?」とうわうわ慌てる『風渡り』の統括者。


 




 ――界の狭間でよもやそんな事が起きているとは思いもせず。

 ――柔らかな祝詞はただ静かに、神の元へ響く。

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