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ポケモン擬人化・二次創作雑文他、日々雑文                                                                       二次創作・擬人化等に嫌悪感を抱かれる方はご遠慮下さい。                                                            各公式団体とは一切関係ありません。展示物の無断転載・加工・模写などはお止め下さい。
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「篠ー。今の時期何食いたいー?」
 台所で篠ノ雨が小エビの背わたを取る傍ら、鉛筆片手に大ぶりの角切りサツマイモの入った鬼饅頭を頬張る瑪月が帳面に向かっている。
「冬…ですか?」
「おう」
 久方振りにやって来た友人の質問に暫し首を傾げ、自分の手元を見ながら答える。
「そうですね…矢張り鍋とか…」
「んー…鍋なぁ…大人数の時には良いんだけどなぁ」
「うちのお客、あんまり連れ立ってこんからなぁ」とボヤく瑪月に、「あぁ、蕎麦屋のメニューか」と納得して篠ノ雨はアドバイスを変える。
「ねぎとマグロのねぎま鍋や、つみれ大根とか…小鉢で出せると美味しいと思うんですけどね」
「おー。そうかー魚系で煮崩れしないのならいけるかなー」
「後は辛い煮込み料理」
 エビの背わたを取り終わり、次に豚肉を薄く切りながら篠ノ雨は続ける。
「……あの時代で手に入る辛味ってなんだろなー」
 唐辛子に山椒に…豆板醤の作り方覚えて行くかなー。あー、蒸した冬瓜に鷹の爪入れたあん掛けたら旨いかなー。生姜の葛湯も出したら喜ぶかなー。
「………。」
 嬉しそうに帳面に書き綴る瑪月を半眼で眺め、篠ノ雨が口を開く。
「瑪月…常々疑問に思っていたんですが」
 んー?と毛先の赤い黒髪を揺らして瑪月が帳面から顔を上げる。
「あんたとっくに故人ですよね」
「おう。綺麗サッパリ身体はないなぁ」
「でも幽霊にしては安定してますよね」
「まぁ厳密には幽霊と違うからなぁ…肉体無いけど」
「………」
「………」

「あんたそんな身体で一体何処で蕎麦屋やってんですか!?」
「ひ・み・つ」

 篠ノ雨の尤もな疑問に、瑪月はへらりと笑って人差し指を振る。
「……あんたがソレやっても可愛く無いですよ」
 かっくりと頭を落として呻くも料理の手は止めず、豚肉の入った鍋のアクを掬い舞茸と小エビを入れて更に煮込む。
「ところで篠何作っとんの?」
 くつくつ煮込まれた鍋から漂うのは、空腹を誘うピリ辛の香り。
「今日の夕飯用、エビと細切り豚肉のピリ辛ワンタンスープ」
「あ、美味そう」
「じゃあ作り方書いてあげますよ」
「……あ、お裾分けは無いのね」
「余るほど作ってませんから。材料位は分けてあげますよ、幼馴染みのよしみで」

 そう言って笑う幼馴染みの表情は、昔と比べようも無い程柔らかで。

「…なぁ篠」
「はい?」
「今、幸せ?」

 何を突然と瞬きながら、それでも幼馴染みの相棒に答える為、篠ノ雨は口を開く。
「幸せですよ。そう言うあなたは?」
「…幸せ…かはまだ判んないけどなー。楽しいぞー。面白い奴ばっかだし」
「なら良かった」と破顔する姿からは、一度精神的に死にかけた奴とは思えない程に生気に満ちていて。
 『大切なのは身内だけ』と言う昔の姿からは想像出来なかったが、矢張り『好い人』が出来るとコイツも変わるらしい。
「お前さぁ、好い人出来たんだから、自分の事大切にしろよ?」

 昔みたく真っ先に自分を切り捨てようとしないで。
 昔みたく他人の幸せの為に身を削ったりしないで。
 昔みたく傷を隠して大丈夫と微笑んだりしないで。

「昔みたく女と間違われたからって相手を速攻で沈めたりしないで」
「あれは間違えた向こうが悪いでしょう」
 しらっと綺麗に微笑む姿に、十年来の付き合いの瑪月はその笑顔の下の怒気を感じて肩を竦める。
「そこに関しては短気だよなぁ…お前」
「女と間違えた上に男だと判っても尚しつこい相手は手っ取り早く黙らせるのが一番でしょう?」
 にこにこにーっこり。
 それはもう綺麗に綺麗に笑う幼馴染みの姿に、瑪月は自分が踏んだ尻尾は獅子か虎か、それともドラゴンかと本気で考えて顔を引き攣らせる。
「一回じゃなかったのか……お前」
「ええもう何度拳で黙らせた事かっ。男同士で酒飲みに行くより女性陣に交じってお茶会している方がどれだけ楽しかったか解ります?」
「怖い…篠怖い…」
 今にもめきょりとこめかみに指を喰い込ませてきそうな篠ノ雨に、カタカタカタと肩を震わせて慄く瑪月。昔から一番冷静に対応しつつ、内心では既に相手を黙らせる気満々でにこやかに微笑むのだから性質が悪い。

「ああ、でも」

――これだけ間違われるのを嫌っていても。

「『彼』は例外ってか~」

 口に出した途端に消えた怒気に、うんうんと微笑ましく頷けばぺしりと頭をはたかれる。
「痛っ」
「痛い訳無いでしょ。…それに、彼は『例外』じゃないですよ」

――その時の篠ノ雨に、微笑んだ自覚は在ったのか無かったのか。



「彼は『特別』です」



 何度繰り重ねた言葉ですら、その微笑みほど明確な意思の重みは無かっただろう。
 それ程までに誇らしげで、幸せそうな、素直な表情。
 まさかコイツの口から惚気を聞く日が来るとは思ってなかったと、思わぬ収穫に笑みを零す。
「そか」
「はい」
「新婚並みに甘甘か~」
 しみじみと呟いた瑪月の一言に、篠ノ雨が片付けようとしていたまな板を落とした。
「はい!?」
「違うの?」
「ナニ馬鹿言ってんですか!」

 ……動揺する篠ノ雨を見るのも珍しいなぁ、と。

 懐かしさを楽しんだとある午後。
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